国際人権(自由権)規約、女性差別撤廃条約、拷問等禁止条約、人種差別撤廃条約などに附帯する
個人通報制度実現を求める決議
当弁護士会連合会は、国に対して、国際人権(自由権)規約、女性差別撤廃条約、拷問等禁止条約、人種差別撤廃条約など日本が批准している人権条約に附帯する全ての個人通報制度を実現することを求める。
以上のとおり決議する。
2010年(平成22年)11月19日
近畿弁護士会連合会
提案理由
1 個人通報制度とは、人権条約の人権保障条項に規定された人権が侵害され、国内手続を尽くしても救済されない場合、被害者個人などがその人権条約上の機関(委員会)に通報し、その委員会の「見解」を求めて条約上の権利の救済を図ろうとする制度である。
2 個人通報制度は、国際人権(自由権)規約、女性差別撤廃条約においては本体条約とは別の選択議定書に定められており、人種差別撤廃条約、拷問等禁止条約は本体条約の中に受諾条項が用意されている。したがって、個人通報制度を実現するには、選択議定書を批准し、または本体条約上の個人通報条項を受諾することが必要である。しかし、日本は未だに、選択議定書の批准または受諾宣言をしていない。
3 人権条約上の権利を確保するための制度として多くの人権条約には定期報告書審査制度と個人通報制度が備わっている。
定期報告書審査制度が、広く国内の人権状況を定期的に報告し審査を受けるものであるのに対し、個人通報制度は定期報告書審査制度では扱われなかった個別問題も取り上げることができる仕組みとして用意されている。すなわち、定期報告書審査と個人通報の二つの制度は、人権を国際的な標準で保障していくきわめて重要な制度として位置づけられ、いわば車の両輪となって、人権条約に定められた権利を実現するというシステムとなっている。
ところが、日本のように、個人通報制度が利用できないという現状は、この車の両輪の一方が欠けていることとなり、人権を国際的な標準で保障していくという制度としてはきわめて不十分である。
4 国際自由権規約を批准している国は166カ国、そのうち個人通報制度を定めた第1選択議定書を批准している国は113カ国にのぼる(2010年8月16日現在)。実に7割に近い国がこの制度を利用できることとなっている。女性差別撤廃条約の場合は、本体条約の批准が186カ国、選択議定書の批准は99カ国となっている(2009年12月末日現在)。
OECD(経済協力開発機構)加盟30 カ国のうち、何らかの個人通報制度をもたないのは日本だけであり、また、G8サミット参加国において、唯一日本だけが個人通報制度をもたない国となっている。
我が国は国連の人権理事会の初代理事国であるが、この事態は、理事国としてふさわしくないといえる。
日本政府は、すでに自由権規約委員会からは1993年、1998年、2008年と3回も第1選択議定書の批准を勧告され、女性差別撤廃委員会、人権理事会等から様々な場で個人通報制度の受入れを繰り返し勧告されている。
5 また、1979年国際自由権規約を我が国が批准したときに、衆参外務委員会において、それぞれ、「選択議定書の批准を積極的に検討すること」という附帯決議が採択されている。本体条約である国際自由権規約批准のときから第1選択議定書の批准すなわち個人通報制度の批准は国会の意思でもあるが、これが実現されていない。
6 昨年9月、民主党を中心とする新政権が誕生し、千葉法務大臣は、就任直後の記者会見で、国内人権機関の設置、取調べの可視化(取調べの録音、録画)とともに、個人通報制度の実現をすると表明した。これらの経過を踏まえ、日弁連は、本年5月国内人権機関の設置、取調べの可視化などとともに個人通報制度の実現を求める決議をしている。
この時期に、近畿弁護士会連合会が決議によって、我が国が批准している人権条約に附帯する全ての個人通報制度の実現を国に求めることは、時宜に適しており、個人通報制度の実現に向けた大きな原動力となることを期待して、提案する次第である。
以 上