同盟歌壇 碓田のぼる選
倒れいく志願の兵の幼顔いまも脳裏に餓死をせしまま
若林義文
〈評〉幼顔の若い兵士が、餓死してゆく姿を目のあたりにして来たのである。「脳裏に餓死をせしまま」は痛恨の表現である。
つつましき雛しまいおれば唐突に脳裏を過ぎるアウシュビッツで見しことどもが
東京都すゞ木すみ江
〈評〉雛を片付けながら、不意によみがえって来たのは、アウシュビッツで見て、いたいけな子どもたちにまつわることどもか。
むじゃ気なるこどもの如く軽やかに退職教員君は党のビラ撒く
静岡県江川佐一
〈評〉現職の時のさまざまな束縛を今は脱して、かつての教師の「君」が、いかにものびのびと党のビラを撒く姿への感動
変装踊りの義民に扮せるグループの駕籠訴のシーンに拍手高まる
岐阜県和田昌三
〈評〉郡上一揆の農民に扮した人たちの直訴の場面を演ずる踊りが、迫真的であったのであろう。結句はさらに盛上る雰囲気。
憲法の署名に応ずる若者らペンとる姿未来につなぐ
福井県日野岳人
〈評〉九条を守ろうという署名運動があろうか。真剣に署名する若者に、作者の心が暖かく包まれ、未来への確信を呼ぶ。
世直しをのぞむ人々集いくる演説会場にホルンの音響く
新潟県加茂川ハル子
〈評〉ホルンの音色が、「世直しをのぞむ人々」に響き合って、活気に満ちたこの演説会場の空気を、リアルに伝えている。
不滅ゆえか世が貧しきか啄木のかの「手の歌」が口衝いて出るくらし
東京都山崎元
〈評〉「はたらけど/はたらけど猶わが生活楽にならざり/ぢっと手を見る」を思い浮かべ、ワーキング・プアへの批判を歌う。
(前号の作者名須山稔を須田稔におわびして訂正します。)
2007年4月15日 『不屈』 中央版 №394