同盟歌壇 碓田のぼる選
東京都 若林義文
片肺の八十七歳よく生きし華南に餓死せる兵偲びつつ
千葉県 高沢義人
治安維持法に囚われ長き拘留の青春ありて今日卆寿あり
和歌山県 中平喜祥
山に入りて母とどんぐりを拾いしは粥を増やさんためなりと聞く
鳥取県 大久保禮吉
若き日より働き者の姉なりき見舞う度毎に煮染め持ち行く
新潟県 柳川月
厨辺に夜々忍びくるこおろぎよそんな悲しい声して鳴くな
新潟県 加茂川ハル子
元治愛せし琵琶湖周航の歌うたいたり不戦の決議掲げる寺に
静岡県 江川佐一
貧しさで白米喰むもなかりしとアリランの歌繰返し聴く
東京都 あまみ・ちゑ
罹病シテ後ノ心ニクラブレバ昔ハモノヲ思ハザリケリ
岐阜県 和田昌三
「涙が出た」「心打たれた」と声掛かる一揆の踊り終えたる後に
大分県 渡辺幹生
病む妻は出かける吾を気遣いてボトルにお茶を用意し呉れる
兵庫県 岸本守
山宣の墓前祭に線香捧ぐ「背後に大衆支持」に涙流るる
福井県 元山章一郎
炊き出しに人々ならぶ派遣切り職なき群れに秋の陽よわく
《選後小感》
選をしながら、「歌はこれ、生くるたたかい」という言葉を、あらためて思い出した。
どの作品も、そうした思いをにじませていたからである。
それゆえ、一字でも大切にし、より深い表現を、と期待するのである。
歌の上手、下手はそのあとのこと。
2009年12月15日 不屈 №426 (毎月15日発行)