集団自決「軍、深い関与」
沖縄戦訴訟大阪地裁 大江さん側勝訴
検定意見の根拠崩れる
沖縄戦の「集団自決」での旧日本軍の命令を否定する元日本軍の守備隊長らが、軍関与を指摘した大江健三郎さん(73)の著書『沖縄ノート』などで名誉を傷つけられたとし、同氏と岩波書店を相手に出版差し止めと慰謝料などを求めた訴訟の判決が二十八日、大阪地裁(深見敏正裁判長)でありました。判決は「集団自決」には「日本軍が深くかかわったものと認められる」とし、名誉棄損は成立しないとして請求を棄却しました。
文部科学省は、この裁判での原告の主張を理由の一つとして日本史教科書の「集団自決」についての記述から「軍の強制」の言葉を削除させる検定意見をつけました。判決によってその根拠が崩れたことになります。
深見裁判長は元守備隊長の命令自体は「伝達経路が判然としないため認定することには躊躇(ちゅうちょ)を禁じざるを得ない」としました。しかし、多くの体験者が日本軍兵士から手りゅう弾を渡されていたと語っていることなどを挙げ、軍の「深い関与」があったと認定。元隊長らが関与したことは「十分に推認できる」とし、学説状況や文献、大江さんらの取材状況を踏まえると『沖縄ノート』などの記述は「真実と信じるに足りる相当の理由があった」とのべました。
同裁判は沖縄・座間味島の守備隊長だった梅澤裕氏(91)と渡嘉敷島守備隊長だった元大尉(故人)の弟、赤松秀一氏(75)が、『沖縄ノート』と歴史学者の故・家永三郎さんの著書『太平洋戦争』(いずれも岩波書店発行)で名誉を棄損されたとして起こしました。梅澤さんらは「隊長命令による『集団自決』説はねつ造されたもの」と主張していました。
沖縄戦「集団自決」 太平洋戦争末期の一九四五年三月下旬、米軍は沖縄県・慶良間諸島の座間味、渡嘉敷両島を攻撃。その後沖縄本島に上陸し、沖縄戦が始まりました。このなかで、旧日本軍守備隊から住民に渡された手りゅう弾を爆発させたり、肉親同士殺し合うなどして、多くの住民が集団的に死に追い込まれました。一九五〇年に地元新聞記者が執筆した『鉄の暴風』(沖縄タイムス社)で、渡嘉敷、座間味両島の「集団自決」は軍命令と記述されています。
2008年3月29日(土)「しんぶん赤旗」
「沖縄戦 集団自決に軍関与」判決
侵略美化勢力の狙い砕く
二十八日、大阪地裁であった沖縄戦「集団自決」をめぐる訴訟の判決は、被告の大江健三郎さんと岩波書店側の主張をほぼ全面的に認め、元日本軍の守備隊長らの請求を棄却しました。文科省の検定意見の根拠は大きく崩れたことになります。
この訴訟はもともと日本の侵略戦争を美化する勢力に支えられたものでした。
裁判で原告側を支援してきたのは「新しい歴史教科書をつくる会」の藤岡信勝会長が主宰する「自由主義史観研究会」や靖国訴訟で被告とされた靖国神社を擁護するために結成された「靖国応援団」など、日本の侵略戦争を正当化する「靖国」派の人たちです。弁護団には自民党の稲田朋美衆院議員も名を連ねています。
裁判の本人尋問では、元守備隊長が『沖縄ノート』を読んだのは提訴した後であることが明らかになりました。訴訟が個人的なものではなく、侵略戦争美化勢力の政治的な狙いによって起こされたことはあきらかです。
文科省は昨年度の教科書検定で、元守備隊長の陳述書を根拠の一つに、「軍の命令はなかったという説が出ている」として日本史教科書から「軍による強制」との記述を削除させました。その意味で訴訟は真実を否定し、ゆがめる役割を果たしたといえます。
しかし判決は、「集団自決」にかんする生存者の証言などをていねいにたどりながら、米軍に捕まりそうになった際の自決用として日本軍が手りゅう弾を配っていたと多くの体験者が語っていること、渡嘉敷島では身重の妻を気づかって部隊を離れた防衛隊員がスパイ扱いをされて処刑されたこと、投降を勧告にきた伊江島の住民六人が処刑されたことを事実として認定。さらに日本軍が駐屯しなかった渡嘉敷村の前島では「集団自決」が起こっていないことなどを挙げ、「集団自決には日本軍が深くかかわっていたものと認められる」と明確に述べました。
さらに判決は、文科省が検定意見の根拠とした元守備隊長の陳述書について「信用性に問題がある」と判断。「集団自決」に二人の元隊長が関与したことは「十分に推認できる」としました。
そもそも係争中の裁判の一方の主張を根拠に検定意見をつけること自体不当ですが、その根拠さえ司法から「信用できない」とされたのです。(高間史人)
2008年3月29日(土)「しんぶん赤旗」
沖縄戦記述訂正の審議資料
文科省が全面不開示 報道発表文も
文部科学省は二十四日までに、本紙記者が情報公開法にもとづいて請求した教科書検定審議会の資料を全面不開示としました。資料のなかには昨年十二月にいったん報道発表した文書も含まれており、文科省も部分的に開示できる資料があることを認めています。全面不開示は渡海文科相が唱えている検定の透明化に逆行し、情報公開法に反する可能性もあります。
本紙記者が開示を請求したのは、高校日本史教科書を発行する教科書会社六社が出した沖縄戦「集団自決」記述の訂正申請について、同審議会が審議したさいに文科省が委員に配布した資料。
このなかには、昨年十二月に同省自身が報道機関に公表した同審議会日本史小委員会作成の「高等学校日本史教科書の訂正申請に関する意見にかかわる調査審議について」も含まれています。
文科省は、この文書も含めて情報公開法五条が不開示情報と定めた「公にすることにより当該事務または事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの」などに該当するとして全面不開示としました。同省教科書課は「配布した資料のなかには(情報公開法五条に該当せず)開示できるものもあるが、全体を一つとして考え、不開示とした」としています。
しかし、同法六条は「不開示情報が記録されている部分を容易に区分して除くことができるときは、当該部分を除いた部分につき開示しなければならない」としています。今回の文科省の措置はこれに反する疑いがあります。
「集団自決」の記述に対する検定では審議会の非公開性が問題となり、渡海文科相は透明性を向上させるとして審議会に検討を求めています。
2008年3月25日(火)「しんぶん赤旗」
検定の問題点深める
沖縄の真実を広める首都圏の会
教科書講座開く
「大江・岩波沖縄戦裁判を支援し沖縄の真実を広める首都圏の会」は十八日、東京都内で連続講座の第五回「検証・教科書検定制度の問題点」を開催しました。約六十人が参加しました。
同会は沖縄戦「集団自決」についての日本史教科書記述から「軍の強制」を削除した文部科学省の検定意見の撤回を求めて運動しています。講座では、この運動の中で明らかになってきた検定制度の問題点を現職の高校教科書編集者と子どもと教科書全国ネット21の俵義文事務局長を講師に深めました。
教科書編集者は自身が体験した「集団自決」の記述をめぐる教科書検定の実態について語りました。約二十カ所の検定意見について教科書調査官の説明を聞けるのはわずか一時間であり、沖縄戦の記述についても議論はできないのが実情だったと指摘。訂正申請についても文科省の考え方を押しつけられた経過を紹介し、「検定意見を撤回させなければ沖縄戦の真実を書くことはできない」とのべました。
俵さんは、社会科教科書以外でも問題のある検定が繰り返されているとし、実例を紹介しました。二月に発表された学習指導要領の改定案では国が定めた「愛国心」などの徳目を全教科で「道徳」として指導することになっているが、これが検定基準となるため、文科省はすべての教科書に「愛国心」などを盛り込むことを求めることが可能になると話しました。
「諸外国の教科書制度に比べて日本の検定制度は時代遅れ」と批判し、検定の段階的廃止を目指しつつ、当面、抜本的な見直しを要求していくことが必要だと訴えました。
2008年3月19日(水)「しんぶん赤旗」
教科書検定改革の好機
沖縄戦記述シンポ 廃止へ運動を
沖縄戦の「集団自決」の教科書記述から文部科学省の検定で軍の強制が削除された問題を考えるシンポジウム「歴史教科書 いままでとこれから」が十五日、東京都内で開かれ研究者、教師ら約五十人が参加しました。「教科書に真実と自由を」連絡会、社会科教科書懇談会、歴史学研究会など九団体が主催しました。
日本史教科書執筆者の坂本昇さんは、自身が体験した検定について報告。軍の強制を明らかにするために出した訂正申請に対して文科省の教科書調査官がなんども書き直しを求めた経過を説明し、「調査官側の意見を書かせる検定になった」と指摘しました。
やはり教科書執筆者で歴史教育者協議会委員長の石山久男さんは、沖縄戦検定の背景に右翼勢力の政治的動きがあることを指摘。どういう手続きで選ばれたかも分からない教科書調査官が密室で検定し、恣意(しい)的に書き直させることができる制度に問題があるとのべるとともに、その問題点が広く明らかになったいまが検定制度の抜本的改革、廃止への運動を盛り上げるチャンスだと強調しました。
沖縄現代史研究者の戸邉秀明さんは、沖縄戦の性格や集団強制死(「集団自決」)についての認識を深めることが重要になっていると問題提起。沖縄の人が体験した差別の問題や、沖縄に来た日本軍の大部分は中国大陸から派遣された部隊で、中国での加害や性暴力の経験が沖縄での行動に影響しているなど「沖縄戦の複雑さ」を指摘。「右派が問題の単純化・わい小化を狙い、一九六〇年代以降の研究の蓄積を無視した議論が横行しているが、それを乗り越えることが必要」だとのべました。
2008年3月16日(日)「しんぶん赤旗」