書棚
『山本宣治 人が輝くとき』本庄豊著
学習の友社定価一五〇〇円
山本宣治の評伝については、すでに西口克己の『山宣』と佐々木敏二『山本宣治』(上・下)の両書が定説です。
本書は前記両書に導かれながら、山宣研究三十年の著者が、新資料を収集し、一九二〇年代の山宣の知己を通じて、より多角的に複眼のように目配りし、山宣の生涯と業績を発掘・紹介しているのが特色です。西口、佐々木の両書をタテ糸とすれば、本書はヨコ糸の山本宣治評伝といえます。
ことし三月五日が暗殺八〇周年、五月二十八日が生誕一二〇年に当たり、本書はその記念出版ですが、実は小林多喜二の『蟹工船』に似て本号「巻頭言」にふれた内容と経過で今日的意義をもって山宣がよみがえってきているのです。
治安維持法と特高警察により、自由と人権が踏みにじられた閉塞の時代の一九二〇年代。山宣の人徳と貢献により山宣の周囲に数多くのすぐれた知人、友人がいて、短い生涯でしたが、交流を深めあったことは、心温まる話でした。たとえば、その中の「長谷川博」の場合、実は戦後学園で評者が師事した一人でなつかしさもこみあげましたが、治安維持法国内適用第一号の京都学連事件の犠牲者で、普通選挙で山宣当選に尽力、戦後は労働運動史の研鑽につとめられました。
文中、島崎藤村の姪の「こま子」がその後長谷川博夫人とは初耳でした。
著者は本書と並んで『テロルの時代ー山宣暗殺者黒田保久二と黒幕某』を上梓していますが、興趣とともに併読の意欲にかられます。
(元)
2009年4月15日不屈 №418 (毎月15日発行)